顎関節症は以前であればあまり聞くことがなかった疾患ですが、近年はマスク生活やスマートフォンの普及などによる姿勢の問題など様々な要因によって顎関節症患者は増加傾向にあります。顎に痛みが現れることによって、食事や会話といった日常生活での当たり前の行為に支障が及んでしまいます。ここではそんな顎関節症についてご説明いたします。
顎関節は耳のやや前方に位置しており、上が側頭骨・下が下顎骨で構成されています。そして、その間に関節円板と呼ばれるクッションのような組織があり、周辺を筋肉や靭帯で覆われています。顎関節の動きは少し特殊で、口をあける時には前方に一度動いてからそのまま下に動いていくことで開口が可能となります。このように動くため大きな開口が出来るようになっているのですが、その特殊な動きのせいで関節面には負荷がかかってしまうことが指摘されています。
顎関節症は「顎関節や咀嚼筋の痛み、顎関節の雑音、開口障害ないし顎運動異常を主要症候とする障害の包括的診断名」と日本では定義されており、大まかに言うと何らかの疾患の可能性がない事が確認された顎関節周辺の問題をまとめて顎関節症と診断されます。顎関節症の症状としては、顎関節周辺の痛みや口が大きく開けられない、口をあけようとするとパキパキ・カクカクといった音が鳴る、ような症状がよく認められます。軽度の顎関節症の症状であれば多くの方が感じた事があり、自然と気にならなくなっていたなんてこともあります。しかし、中には症状がそのまま悪化してしまい治療が必要になるケースもあります。そのような場合には、人によって原因が異なることもあるため問題別にⅠ~Ⅴ型に分類されており、それぞれの問題に合わせた治療を行う必要があります。
顎関節を動かす代表的な筋肉である咬筋・側頭筋・内側翼突筋・外側翼突筋の4つの筋肉をまとめて「咀嚼筋」と言います。主に噛むような動きで働くのですが、食いしばりや歯ぎしりといった異常行動によって筋肉に問題が引き起こされると痛みや開口障害などの症状が誘発する引き金となります。このように筋肉の問題によって引き起こされた顎関節症をⅠ型顎関節症と診断します。軽度のⅠ型顎関節症は多くの方が経験したことがあると言われています。例えば、スルメやガムのように硬い食べ物や長い時間噛むような食べ物を食べた際に顎関節周辺にだるさを感じた事はありませんか?このような症状がⅠ型顎関節症の方には多く認められます。
【ポイント】
〇食事や会話をしている時に顎関節周辺に鈍痛・だるさ・疲労感を感じる
〇朝起きた時に顎関節にだるさを感じる
〇食いしばりや歯ぎしりをしている
〇頬の内側に歯型がついている事がある
〇歯科で歯の表面が削れていると指摘をされたことがある
急に大きな口を開けた時やコンタクトスポーツのように人とぶつかるような状況や転倒した際にぶつけた等、顎関節に直接外力が加わるような時に顎関節周辺の靭帯や関節包に問題が引き起こされてしまう事があります。ご自身できっかけを自覚されている場合もあれば頬杖などの小さい外力が積み重なって発症することもあります。Ⅱ型顎関節症は分かりやすく考えると、顎関節での捻挫が起こっているような状態と表現できます。このタイプの顎関節症は、炎症が引き起こされる事が多いため較的強い痛みが伴う事が多いです。
【ポイント】
〇顎関節に外力が加わった
〇急激に痛みが起こった
〇患部に腫れが認められる
顎関節を構成する側頭骨と下顎骨の間には衝撃を吸収するためのクッションのような存在の関節円板が位置しております。本来、関節円板は開口などの動きに合わせてくれていますが食いしばり等の問題などが加わることによって関節円板の位置がズレてしまう事(転位)があります。特に多いのが前方にズレてしまうことで、そうなると開口するときに関節円板がかえって顎関節の動きの邪魔をしてしまいます。その結果、開口時に痛みが引き起こされたり、開口の際の動きの邪魔をしてしまう事から関節雑音や開口障害が引き起こされてしまうようになります。
【ポイント】
〇指二本分以上の開口をしようとすると痛みが現れることがある
〇開口時にひっかかりを感じる
〇口を大きく開けようとするとロックがかかったようになって開口出来ない
〇カクカク・パキパキなど関節雑音が認められる
〇痛みの部位は耳の前の顎関節部分
長期間顎関節症が続いた結果、筋肉や関節円板への負荷が継続したことによって側頭骨や下顎骨の関節面が変形したりすることがあります。骨の変形まで認められた場合には、変形性顎関節症としてⅣ型顎関節症と診断されます。Ⅳ型顎関節症は比較的高齢の方に発症する傾向にありますが、近年はい小さいお子様に顎関節症が発症することがあり若い方でも顎関節症発症からの期間が継続すると、変形が引き起こされてしまう事があります。変形まで起こる前に筋肉や関節円板等の組織に負担がかかっているため、上記の顎関節症の症状が多く認められます。
【ポイント】
〇顎関節症の期間が長い
〇シャリシャリ・ジャリジャリといった石が擦れるような音がする
上記のように何らかの器質的問題やその他疾患の可能性も低く、何も当てはまらないけれど顎関節の問題が起こっているような場合にⅤ型顎関節症とされます。症状としては、他の型と同じような症状が現れます。
顎関節症の発症に大きく影響する癖が「食いしばり」や「歯ぎしり」です。食いしばりをすることによって顎関節にかかる負担は4~5kgと言われており、これを長時間続けることによって常に圧力を受け続けることになります。また、その間に噛む筋肉も使い続けるため、知らない内に関節・筋肉ともに大きな負担を与える事となります。重い物を持ち上げる時のように強い食いしばりをしている時はすぐに気付く事ができるのですが、軽い接触の場合には気が付かず長時間続けている事がほとんどです。また、下向きの姿勢の際に上下の歯は当たりやすいのですが、現代の生活では基本的に下向きでの動作が多いとされています。例えば、デスクワークや読書、スマートフォンを触っているなどが挙げられます。食いしばりの場合それだけにとどまらず、首にも影響を与えるため肩こりや首こりの原因にもなってしまいます。
顎関節症にかかる負担は日常生活の癖に多く存在します。例えば、頬杖を突く癖は顎を下から突き上げるような圧力がかかるため顎関節に大いに影響を与えます。他にも、同じ方ばかり向いて横向きで寝る癖も良くありません。下になっている側の顎関節には頭の重さがのりかかり、周辺の靭帯や筋肉に対しても問題を起こす衝撃が加わっていることになります。他にも様々な癖がありますので、何となくこれは顎関節に圧力がかかってそうと思う癖が無いかどうかチェックしてみてください。
顎関節を使い過ぎとは?と思われますが、例えば喋ることが多いお仕事なんかは常に口を動かすため顎関節周辺の筋肉に疲労が起こりやすいです。他にも、歌うお仕事もしくは歌う事が趣味、フルートやサックスといった楽器の趣味をお持ちの方も顎関節周辺の負担が考えられます。また、食事の際に硬い物がお好きなのは本来であれば良い事なのですが、少し症状が出ている時には避けていただいた方が良いです。
顎関節症の治療として歯列矯正を提案されたり、近年は歯に関してきれいにしようという意識の高まりから歯列矯正を受けられておられる方が増えているように思います。しかし、歯列矯正を行うにあたって歯を抜歯したり削ったり、また矯正のための器具をつけたりと負担がかかる事が続きます。その結果、多くの方が違和感から食いしばりをしてしまうようになったり噛み合わせの変化によって顎関節に影響を及ぼす事があります。当院にも実際に歯列矯正中~後にかけて顎関節症の症状が出てきたとご相談いただくことがあります。ですが、歯を削っていたり抜歯していたり、歯列矯正途中の場合には中々治療が難しい側面があります。歯列矯正を検討中の方はメリット・デメリットをしっかりと相談した上で行うようにご注意ください。
顎関節症治療 一回 5500円
当院では、顎関節症に対して東洋医学的鍼灸治療もしくは整体療法を選択し治療を行っております。
状況にもよりますが、筋肉性の問題が大きく関与していると判断した場合には鍼治療が効果的と考え選択することが多いです。筋肉の深部まで刺激を与える事が出来ること、直接筋肉の動きにアプローチが出来ることが選択の理由です。顎関節症発症初期は筋肉性が多いと言われるほど、多くのパターンで影響している事が考えられます。
関節円板の問題が起こっている場合には、整体療法によって関節の動きの修正を行う事もあります。ただし、バキバキと言わせるような方法では行いませんのでご安心ください。